語形が近く、意味も混同して使われることが多い語句の代表として、「おざなり」と「なおざり」が挙げられます。
「おざなり」は、辞書で『お座なり』と漢字があてられているように、お座敷などでの<その場での間に合わせ>といった意味で、江戸時代から使われています。 一方、「なおざり」は語源ははっきりしていませんが、歴史的仮名遣いでは「なほざり」で、「なほ(直)」でないことを表していたようです。こちらは、古く平安時代の和文でも使われています。
二つの意味を比べてみると、「おざなり」は<その場限りでいい加減に扱う>のであって、一応することはするのですが、「なおざり」は、<無視してほうっておく>ことになり、必要なことをしないという意味になります。
つまり、「おざなりな謝罪の言葉」は○ですが「なおざりな謝罪の言葉」は間違いで、「災害対策がおざなりにされた」は×ですが「災害対策がなおざりにされた」が正しいと言うことです。
この二つの言葉がなぜ混同されることがあるのか、と考えてみますと、「おざ」と「な」がひっくり返っただけ、という風に意識されがちだからでしょう。
これは『音転倒』と呼ばれる現象と類似しているわけで、茶釜(チャガマ)を『チャマガ』と言ったり、『エベレスト』と『エレベスト』というような言い誤りや、場所をショバ、種をネタと言うような隠語の造語法などがあり様々ですが、この二語の場合も、なんとなくそのように意識されることがあるのでしょう。
しかし、ことばの基本的な意味は、そう簡単に混同してしまうと、思わぬ自体に直面してしまうわけで――
決してなおざりにしてはいけない、というワケです。
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